2014年3月28日
私が岡山地裁で担当したゴルフ場での事故についての判決が、最新の「判例時報」(H26・3・21号)に掲載された(岡山地判平成25年4月5日判決・判時2210号88頁)。
事案は、XはY3の運営するゴルフ場において、Y1ほか2名と同組で、Y3の雇用するY2を担当キャディとしてプレーしていたところ、13番ホールで、XとY1の第1打がほぼ同じ位置に落ちた。そこで、Xが第2打を打ち、次いでY1が第2打を打ったところ、Y1の第2打は「シャンク」して右前方に飛び、振り向いたXの左目を直撃し、Xは左目を失明した。
Xが保険金請求をしたところ、Y1の保険会社は、「被害者は、加害者の近くにいて、加害者がボールを打つことを分かっていたのであるから、ボールを打っているゴルフプレーヤーより、他のプレーヤーが危険な位置に立つことを避けるべき注意義務があるので、ボールを打つプレーヤーの打つ方向に他のプレーヤーが居ることを分かっていて打った場合‥‥以外は、ボールを打ったプレーヤーに責任はない」と主張して、保険金の支払いを拒んだ。
そこで、Xは加害者Y1と、キャディのY2、その使用者であるY3を被告として提訴したのが本件である。
判決は、Y1、Y2・Y3のいずれにも責任を認めたうえで、「本件は複数の加害者の過失と被害者の過失が競合する一つの事故において、その事故の原因となったすべての過失の割合が認定できる」として、その過失割合をXが3割、Y1が6割、Y2・Y3が1割と認定し、主文としてはY1・Y2に対し、連帯してXに損害額の7割を支払えと命じた。
基本的には、大変よいバランス感覚の判断であったと思う(なお、本件は控訴審で和解して終了した)。
本件で、一番許せないのは、保険会社が上記のような理由で支払いを拒否したことである。こんな時に保険金が下りないのであれば、一体何のために保険をかけるのであろうか。
とりわけ、本件ではXとY1は以前からのゴルフ仲間であったにもかかわらず、保険会社が上記のような態度をとったことから、XはY1を被告として本件訴訟を提起せざるを得なかった。親しい友人同士を無理やり訴訟の相手方にしないと保険金が下りないということになれば、泣き寝入りも増えるだろうし、多くの友情が損なわれるだろう。
そのような関係者の苦痛の上に出された判決だからこそ、今後生じるゴルフ場での事故の裁判に役立てばいいなあと思う。
なお、本件は高裁で和解により終了した。
※画像は上から、①判例時報の表紙、②事故が起こった時の関係者の位置と打球の方向、③私が作成した、ゴルフ場での事故に関する判例の一覧表(一番下が今回の判決である)。
弁護士 岩城 穣(「いわき弁護士のはばかり日記」No.172 2014年3月28日)