住宅と株の違いは?

 平成元年10月=8000万円、平成2年1月=1億1000万円、平成2年5月=1億3500万円。月平均一千万円もの値上げをしながら、「今がお買い得です。まだまだ値段はあがります。これから絶対値下げすることはありません」と口を揃える販売員。「今買わないと永久にマイホームは手に入らないかも知れない」と焦り、全財産をはたき、何千万円ものローンを組んで、最高1億3500万円で住宅を購入した住民たち。平成3年2月=9000万円。住民たちはある日突然広告のチラシを見て目を疑う。「えっ、4500万円も値下げ?!」平成3年10月=7200万円。販売員が物件を見にきた人たちに言う。「今がお買い得ですよ。少し前まで1億3500万円もしていたものですから」‥‥。

 これが昨年(1992年)4月、当事務所の蒲田、財前と私の3名が弁護団に加わり、15世帯が西松建設に対して「値下げ販売禁止の仮処分」を申し立てた「学園前ガーランドヒル事件」である。

 今年4月、大阪地裁は、住民の請求は処分手続にはなじまないとして申立てを却下したが、「値下げしてもなお相当額の利潤が残ることは容易に推測でき、この差額分は適正な利潤を上回る利益を得しようとした疑いがある。差額の返還を要求する住民らの心情は十分に理解できる」として、住民の要求の正当性を認めた(大阪地裁平成5年4月21日決定・判例時報1492号118頁)。

 住民たちは直ちに不当利得返還を求める本を起こした。更に木年7月には京都の木津川台の24世帯が近鉄不動産に対して暴利分の請求の武判を起こし(グラフ参照)、奈良県の北登美ヶ丘の住民19世帯も同じく近鉄不動産に対して提訴を予定している。

 「高いときに買った者が悪い」という冷やかな見方もある。しかし、株やゴルフ会員権と異なるのは、住宅は投機商品ではなく人間の生活の基盤であるうえ、何千万という値下げ分は人間の人生を左右する莫大な金額であるということだ。
 業者が一方的に値下げした分を一生働いて払い続ける――こんな不正義が許されてよいはずはない。

弁護士 岩城 穣(「天王寺法律事務所ニュース」第47号、1993年7月30日発行)