私が弁護団の一員として頑張っている事件の一つに、 現在最高裁で闘っている玉野事件がある。
和歌山坊市に住む玉野ふいさんは、42歳の時に顎の骨を手術で取ってしまったため、身体障害3段の言語障害者である。玉野さんは1980年の衆参ダブル選挙のとき、日本共産党の候補がお年寄りの医療や福祉のことを訴えるのを聞いて、周りの人に支持を訴えたいと思ったが、言葉が不自由なので、禁止されているとは知らずに後援会の入会申込書を近所の9件に配ったところ、尾行していた警察官に公選法違反として検挙されたのである。
ご承知のとおり、現在の公職選挙法は「べからず法」と言われ、選挙活動を戦しく制限し、戸別訪問は禁止 され、文書による選挙運動も原則として禁止されている。一般の有権者が自由にできる方法としては、電話による訴えくらいしかない。 ところが、言語障害者は電話が使えないため、全く選挙運動ができないのである。
私たちは、「文書で政策を堂々と訴えて競い合うことを禁止する現在の公選法は憲法に違反する。しかし、仮にこれが合憲であるとしても、健常者は多少とも選挙運動ができるのに言語障害者は全く選挙活動の権利が奪われてしまうのは、憲法14条の法の下の平等に違反する」と主張している。しかしながら、一審の和歌山地裁御坊支部も二審の大阪高裁も、玉野さんに主権者としての権利を認めず、罰金と公民権停止の判決を下したのである。
共和や佐川に見られるように、日本の政治は巨悪には甘く、弱いものには厳しい。昨年は「国連害者の10年」の最終の年であったが、日本では障害者は主権者として政治に参加することさえ認められていないのである。政治が腐敗を極め、選挙による政治の浄化が決定的となっている今、改めてこの事件の意味を考えさせられる。一人でも多くの皆さんにこの裁判のことを知って頂き、最高ではぜび罪を勝ち取りたいと思っている。
弁護士 岩城 穣(「天王寺法律事務所ニュース」第46号、1993年1月1日発行)