昨年(1989年)7月、阿倍野区の表通りから少し奥に入った住宅地の真ん中に、10階建マンションを建てると施主が伝えて来た。本来なら建築基準法上、四、五階までしか建てられないのに、表通りに面した既存の2階建の「増築」の形で申請したら、市から建築確認が下りたというのである。こんな方法が認められたら、表通りから離れた低層住宅地の中に巨大な建物が建てられる先例になる──近隣の2軒の住民の方から相談を受けた蒲田弁護士と私は、大阪市建築審査会に建築確認取消しの審査請求をすると共に、近隣一帯で署名活動をすることを提案した。
するとどうだろう、わずか1ヶ月ほどの間に1500名 もの署名が集まったのである。この世論を背景に、10 月6日の口頭審理は押せ押せムードで、大阪市のズサンな許可を徹底的に追及した。12月20日、審査会は不当 にも請求を棄却したが、同じ日、なんと施主は工事取止め届を市に提出し、11月20日、大阪市は自ら建築確認を取消したのである。市と施主との間で何らかの「取引」があったと考えられるが、いずれにせよ実質的に全面勝利である。
異常な地価高騰の中で、マンションなどの違法建築や今回のような無理な建築が各地 でなされている。行政は住民の住環境を守る立場に立たず、無為無策の放任状態である。今回の勝利は、それでも住民が住環境を守るとの一点で力を合わせれば、乱開発は阻止できることを示したといえよう。
弁護士 岩城 穣(「天王寺法律事務所ニュース」第40号、1990年1月16日発行)