岩城弁護士の過労死問題最前線(2024年7月~11月)

◆7月18日、令和5年度の労災補償状況が公表されました(6月28日に公表されたデータに一部誤りがあったとのことで、修正後改めて公表)。精神障害の請求件数は前年より900件近く増えて3575件に達しました。脳・心臓疾患はここ数年減少傾向にありましたが、1023件と大幅な増加に転じました。業務上認定件数も、精神障害は883件、脳・心臓疾患は216件(合計1099件)と大幅に増加しました。精神障害、脳・心臓疾患とも最近認定基準が改定されたことや、働く高齢者の増加などが影響したと思われますが、引き続き深刻な状況が続いています。

◆8月2日、過労死防止大綱2024年版が公表されました。大綱は、過労死等防止対策推進法(過労死防止法)に基づいて政府の過労死等の現状と防止対策をまとめた文書で、2015年に策定後、2018年、2021年、2024年と3年毎に改定されてきました。今回の主なポイントとしては、①2025年に大綱策定から10年の節目を迎えるため、この間の調査研究や取組の成果を振り返る、②令和6年4月から全面適用された時間外労働の上限規制の遵守の徹底や再発防止指導の強化、③芸術・芸能分野を重点業種に追加、④業種別のカスタマーハラスメント対策の取組の支援、などです。

◆9月27・28日、過労死弁護団全国連絡会議の第37回総会が札幌で開催され、現地参加しました。現地・Zoomをあわせて90名以上が参加し、過労死・過労自殺の現状、最近の重要裁判例や認定例、労働時間の過少認定事例、証拠保全の現状などについて、活発な議論が行われました。また、明治大学の山崎憲先生に「AIと労働」についてお話しいただきました。

◆10月11日、令和6年版過労死白書が公表。医療従事者(医師・看護師)の労災認定時案の分析結果、DX(デジタル・トランスフォーメーション)等の先端技術担当者や芸術・芸能従事者の働き方の実態等が紹介され、また働き方改革事例やメンタルヘルス・ハラスメント防止対策などの取組事例がコラムとして紹介されています。 ◆11月14日、第29回過労死等防止対策推進協議会が開催され、私はWEBで参加しました。今回は、過労死白書の作成報告のほか、過労死等防止の取組状況について自由な意見交換が行われました。私は2015年12月に協議会の専門家委員の1人に任命され、その後10年間にわたって委員を務めてきましたが、今回の協議会をもって任期満了で退任しました。協議会の最後に、私を含めて今回退任する6人から退任の挨拶をさせていただきました。10年間、本当にお世話になり、ありがとうございました。

弁護士 岩城 穣

(春告鳥21号 2025.1.1発行)