浜矩子さん、「アベノミクスの正体」を喝破──働き方ASU-NET第18回つどい

2013年10月7日

◆私たちは2006年9月「働き方ネット大阪」を結成し、ホワイトカラーエグゼンプションやワーキングプア、ブラック企業など働き方をめぐる様々な問題を取り上げてユニークな活動を展開してきたが、これを「働き方ASU-NET」に改組発展させ、2013年7月、NPO法人として認証された。
 なお、「ASU」は、「Activist」、「Support」、「Union」の頭文字を取ったものである。

◆そこで、2013年10月4日、「働き方ASU-NET」NPO移行記念のつどい(働き方ネット時代から通算すると第18回つどい)として、「どう変える 日本経済と働き方」を、府立労働センター(エル大阪)で開いた。会場は満席の約200人で埋まり、大変な熱気であった。

◆記念講演は、エコノミストで同志社大学大学院教授の浜矩子さんのアベノミクスとどう立ち向かうか」。この方のお話をお聞きするのは初めてだったが、本当に明快で、わかりやすかった。要点をレジュメ風に整理すると、次のとおりである(なお、あくまで私なりの理解であり、間違っている部分もあるかもしれない。また、3の後半部分は、後述の対談の最後に浜先生がおっしゃったことを加えている)。

1、アベノミクスの正体
 「アベノミクス」は「アホのミクス」。最近は頭に「ド」を付けることにしている。
 「幽霊の 正体みたり 枯れ尾花」ということわざのとおり、正体を見抜くことが重要である。
 アベノミクスに副作用があるかどうかという議論は、本作用はよいということを前提にしており、それ自体が誤っている。
 アベノミクスは安倍政権の「富国強兵」政策の経済的側面である「富国」。政治的側面である「強兵」は憲法改正。両方あわせて「大日本帝国を取り戻す」というものである。
 「3本の矢」という時代がかった言い方をしていたが、いつの間にか4本目に東京オリンピックを入れている。

2、アベノミクスの3つの「内なる敵」
①異次元緩和
 日銀を「専任金貸し業者」にして経済に莫大な金を流し込ませ、国債を買い支えさせるものであるが、異次元から帰れなくなる。帰ると国債も円も大暴落する。
②市場至上主義
 市場を勢いづけるために、常にイベントを行い続けなければならない。株価も円安も、予想以上に勢いがなかった。そこに「神風」として登場したのが東京オリンピック。イベント型の経済政策なので、イベントの種が尽きたら終わり。
③みぞの鏡病
 「みぞの鏡」というのは、「ハリー・ポッター」に出てくる、自分の理想を映し出す魔法の鏡(逆に読むと「のぞみ」)である。ひとたび見てしまうと、その前から離れられなくなって立ち尽くし、現実が見えなくなる。安倍首相は、このみぞの鏡病に罹っており、永遠の若さ(永久に右肩上がりを続ける)を手に入れたような錯覚に陥っている。そのために、格差や貧困、非正規や地域社会の崩壊といった現実を直視できなくなっている。
 日本の現実は、豊かな社会なのに貧困率が増大し、社会の「包摂度」が低下している。貧困率はデンマークが5.2%なのに対し日本は16%に達している。この人たちを包摂しないで、デフレが脱却できるはずがない。政権としてこの病にかかること自体が犯罪的である。

3、アベノミクスにどう立ち向かうか
 合い言葉は「シェアからシェアへ」。
 前者のシェアは、「市場占有率」であり「奪い合い」。薄利多売で大量に売りさばく「出血大サービス」や「集中豪雨型輸出」など。
 後者のシェアは「分かち合い」。賃金や金利の上昇による再分配、ワークシェアリング、地域の重視、国境を越えたシェアなど。喜びや悲しみの分かち合い、精神的なサポートも分かち合いであり、誰でも参加できる。このようなNPOの活動もまた、分かち合いである。

◆続いて、森岡孝二教授によるミニ講演「雇用改革と限定正社員」。森岡先生は、ここまできた非正規労働者の増加、低下する若者の労働所得、正社員は今も働きすぎ、といった現状を整理したうえで、アベノミクスの成長戦略の柱である労働・雇用改革について、①問題だらけの「限定正社員」制度、②ホワイトカラーエグゼンプションの再登場、③国家戦略特区はブラック企業公認特区、の3点をわかりやすく説明された。

◆休憩を挟んで、「質問を受けた対談」(会場の参加者から提出された質問用紙も織りまぜながら、浜・森岡両先生に対談していただく)を、私がコーディネーターとなって行った。質問用紙が16通も寄せられ、時間も限定されていたため、あたふたしているうちに時間が来てしまった感じであるが、何人かの参加者が「よかった」と言ってくれたので、ほっとしている。

◆浜先生は、前日は広島で開かれた日弁連人権擁護大会のシンポジウム「なぜ、今「国防軍」なのか」にもパネリストとして出席された(私は参加できなかったが)。大変ご多忙ななか、ご講演下さった浜矩子先生に、心から感謝する次第である。

「いわき弁護士のはばかり日記」No.138(2013年10月7日)より(一部修正)>