団藤重光先生の逝去を悼む

2012年6月27日

 団藤重光先生が6月25日、亡くなられた。98歳、老衰とのことなので、天寿を全うされたといってよいだろう。
 団藤先生といえば、私たちの司法試験受験世代(1980年代前半)にとっては、刑法のカリスマ的存在である。
 私を含め、先生の「刑法綱要(総論・各論)」を「基本書」にして刑法を勉強した人は多い。

 先生のこの著書は、文字が大きく文章も読みやすいのに、重厚であり、「註」も含めて無駄な記述が一切ない。
 何よりも、刑法の本というよりも、人間のあり方を問うた哲学書のようだ。座ってこの本を開くときは、姿勢を正し、敬虔な気持ちでページをめくらなければいけないような、そんな重みがあった。

 なのに、文章に人間に対する愛情、ヒューマニズムが感じられる。
 重厚なのに平易であり、厳粛なのに優しさが滲み出ているのである。
 この点は、我妻栄先生の名著、「民法講義」とも共通していると思う。

 団藤先生は最高裁判事も務められ(1974~83年)、再審の門戸を広げた「白鳥決定」(1975年)に関わるなど、リベラル派としても高い信頼を受けた。
 判事退官後は死刑廃止運動に積極的に関わられたことにも、先生のヒューマニズムが表れている。
 こんな刑法学者は、もう出ないのではないだろうか。

 最後までお会いする機会もなかったが、先生の著書で学んだことは、間違いなく私の一部になっていると思う。
 先生を惜しむ気持ちと感謝の気持ちでいっぱいである。
 団藤先生、本当にありがとうございました。

「いわき弁護士のはばかり日記」No.80(2012年6月27日)より>