毎年全国で多くの過労死・過労自殺が発生し、その一部は労災として認定されるが、厚生労働省はその請求件数・認定件数などを公表するだけで、肝心の過労死・過労自殺を発生させた企業名は公表しない。
その結果、過労死・過労自殺を出した企業は知らん顔で、また新しい社員を募集する。
過労死遺族は、会社は責任を感じてほしいと民事訴訟を起こすが、多くの場合、会社は徹底して争う。遺族と和解して再発防止を約束しても、本気で守る企業は多くない。
企業は、その商品やサービスのみで社会貢献をするのではない。
憲法27条1項は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」と定める。
国民がこの権利義務を実行するには、企業が雇用によって、安心・安定して働ける労働の場を提供することが不可欠である。
とすれば、過労死を出した企業は、アスベスト被害や食品中毒を発生させたり、耐震偽装を行った企業等と同じく、せめて公表がなされるべきではないか。そうしてこそ、企業は本気で労務管理を改善するし、就職する人たちも企業を選択する材料とすることができる。
そんな思いから、2009年11月18日、私たち大阪過労死問題連絡会は、全国過労死を考える家族の会の代表の寺西笑子さんを原告が原告となり、不開示決定をした国(大阪労働局長)を被告として、不開示決定の取消しを求める行政訴訟を提起した。
訴訟の中で国側は、
①事業場名が開示されると、労災認定を受けた労働者個人が識別されプライバシーが侵害される
②公開された企業は、法令を順守しない企業であると認識され社会的評価が低下し、その企業の競争上の利益その他正当な利益を害するおそれがある
③企業が労災関係の調査に非協力的となり、労災保険事業の適正な遂行に支障が出る
など主張して争った。
これらは、結局のところ、将来の過労死を防止するという社会的利益よりも、過労死企業の目先の利益の方を擁護するものといわざるを得ない。この国の厚生労働省はいったいどちらを向いているのか、と考えさせられた。
11月10日大阪地裁で判決が下された。判決は、上記の国側の主張をすべて退けて、過労死を出した企業名の開示を命じるもので、原告完全勝訴であった。
国側は、この判決を真摯に受け止め、控訴せずにこれに従うべきである。
この訴訟を勝訴に導いたのは、弁護団長の松丸弁護士と若手弁護士たちである。
勝訴判決を喜ぶ若手弁護士たちと過労死遺族たちの瞳は、輝いていた。
この判決は、近々本格的に始まろうとしている「過労死防止基本法」の制定運動にも大きな励まし、追い風となるだろうし、そのようにしていきたい。
※画像 勝訴後の記者会見の様子(左から、松丸正弁護士、和田香弁護士、寺西笑子さん、立野嘉英弁護士、舟木一弘弁護士)
【追記】(2013・10・27)この1審大阪地裁の勝訴判決は、控訴審の大阪高裁で逆転敗訴し(2012・11・29)、最高裁でも不受理により敗訴となりました(2013・10・1)。これだけブラック企業批判が強まり、厚労省自身も悪質なものは企業名を公表するという流れになっているなかで、最高裁には時代を透徹した賢明な判断を期待していたのですが、残念です。過労死防止基本法が制定され、その予防策の一環として、過労死を出した企業名の公表が取り上げられる日が、いずれ来ることと思います。