10月20日、大阪弁護士会から派遣されて、大阪府立長尾高校の3年生のクラスに「出張授業」に行ってきた。出張授業は、昨年の北千里高校に次いで2年目である。
長尾高校は、枚方市の北東の端のほうで、京都府に近い高台にあり、環境も見晴らしもすばらしい学校である。
ちょうど2年生が修学旅行中で、校長先生はそれに同行されているとのことで、教頭先生が出迎えて下さった。教頭先生によれば、大阪でも少し田舎の高校になるので、おとなしい素直な生徒が多いとのことだった。ほんの少し話しただけだが、学校への愛着、生徒たちへの深い愛情が伝わってきた。
授業は、3年生の7クラスを7人の弁護士が担当する。私とO先生を除く5人はみんな若く、弁護士3~5年目くらいだと思う。生徒にとっては、自分の父親と同じくらいかそれ以上の年齢のオッサンよりも、お兄さんのような年代の若い弁護士のほうが刺激的だったに違いない(2組の皆さんゴメンナサイ)。
授業の内容については、「労働者の権利について話してほしい」というだけで、内容についてはすべて講師の弁護士に任されている。いろいろな切り口があるだろうが、私は過労死問題に関わっていることから、若者の過労死・過労自殺の実例から入っていくことにした。
過労死については、1998年に23歳でクモ膜下出血で亡くなったデザイナーの土川由子さんの事例、過労自殺については、2008年8月に27歳で過労自殺し、この9月に民事訴訟を提訴した飲料配送会社員のNさんの事例(No.45で紹介)について、お母さんの手記(陳述書)を読みあげてもらうところからスタートした。なくなった人たちと年代が近いからか、みんな真剣に話を聞いてくれた。
この世の中のすべての商品、サービスは、労働者の労働によって作られている。労働は、生活のための手段であるとともに、自分を実現し、世の中に貢献するすばらしいものである。
しかし、労働はぐったりと疲れる。それを回復するには、十分な休息、休日と、自分のための時間、家族との団らんが必要である。
他方で、雇う側は、安い賃金で無限に働いてもらうのが最も効率的。だから、放っておけば、際限のない低賃金と長時間労働になっていくので、労働基準法は1日8時間、週40時間を始めとする労働条件の最低限を定め、また労働組合法が労働者の集団的な行動を保障している。
しかし、現在の日本では労働基準法が守られていない場合が多く、また労働組合の組織率や活動が低下していることから、労働者は過酷な働き方を余儀なくされている。過労死・過労自殺は、無理をして働かざるを得ない中で生まれている。
ここ数年のうちに社会に出ていく君たちの労働環境は、過去にない最悪の状況となっている。君たちの先輩、親の世代として責任を感じている。
労働者にはどんな権利が保障されているのか。いま、ご両親やきょうだいの人たちの働き方は大丈夫か。過労死・過労自殺しないためにはどうしたらいいのか。みんなで一緒に考えていこう。
──うまく話せなかったが、私が言いたかったのはこんなことだった。しかし、あっという間に50分が経ち、チャイムが鳴った。
高校3年生の多感な、珠玉のような人生の一時期の若者たちに、たった一度だけ会って、弁護士として、人生の先輩としてメッセージを送る。人生の一瞬の交差。「一期一会」というのは、こういうことを言うのだろうと思う。
生徒たちの心の片隅にでも、今回の話が残ったらいいなあ。そんなことを思いながら、他のクラスを担当した弁護士たちといっしょに帰路に着いた。
(写真は、土川由子さんの学生時代の作品です。)
弁護士 岩城 穣<「いわき弁護士のはばかり日記」No.49(2011年10月22日)より>