1 「性的マイノリティ」の社会的承認
最近は、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字。これに「Q」(クエスチョニング)や「+」(その他にも多くの分類があること)を付けることもあります。)の人たちが少なくない割合で存在し、その人たちの性自認(自分の性をどのように認識しているか)や性指向(どのような人に性的魅力や感情的な魅力を抱くか)はその人固有のものであり、個人の尊厳、幸福追求権として尊重されなければならないという考え方が急速に広がりつつあります。
同性婚はその延長線上の問題であり、つい最近の10月30日には東京高裁が、同性婚を認めない現行法制は憲法に違反するという判決を出すなど、日本でも近い将来、同性婚が認められることになると思われます。
2 そもそも生物や人間は「オス」と「メス」にはっきり分かれるのか
──脚光を浴びつつある「性スペクトラム」の考え方
上記のLGBTは「性的マイノリティ」と言われていますが、そもそも「マイノリティ」と「マジョリティ」という問題ではなく、「オス」と「メス」の間には無限の段階があるという考え方・研究が進んでいます。
その考え方の要点は、(私の理解では)次のようなものです。
(1) 雌雄の分類は二項対立的なものではなく、その間に無限の段階がある連続体(スペクトラム)である。
(2) そして、性スペクトラムは、(a)細胞、(b)器官、(c)個体の各階層で成立し、(b)は(a)の総和、(c)は(b)の総和として捉えられる。つまり、細胞にも、内臓にもオスとメスがあるということである。(c)の個体である生まれたばかりの赤ちゃんの中には、外観だけでは性別が判別し難いケース(「性分化疾患」といわれる)もある。
(a)の細胞は、性染色体の遺伝子によって性スペクトラム上に位置し、(a)と(b)は内分泌(ホルモン)の作用によって同調するが、乖離することもあり、また(c)は様々な環境要因によって修飾・攪乱される。
(3) 人間の脳も器官の1つであり、脳は男性だが、その他の器官は女性というケース(その逆も)では心の性と身体の性が異なることになる。これが「性的違和」(性同一性障害)である。また、同じ人(例えば男性)であっても、ある問題や分野については女性的な考え方や行動をとることもある。
よく「男性脳・女性脳」といった言葉が使われるが、それは平均的な傾向や特徴として捉えられるべきものである。
(4) 個体の性スペクトラムは、生涯不変のものではなく、環境や年齢によって変化していくこともある。
3 性別というものの理解についてのコペルニクス的転換が必要
これまで人間社会は、①人を男性と女性に分け(性別二分論)、②それぞれについて役割があるとし(性別役割分業論)、③法律や制度によってそれを固定化し押しつけてきました。
②の中には、長い人類の歴史の中で遺伝子として形成されてきた部分もあり(※1)、一概に否定することはできません。しかし、高度な文明社会になった今、男女の役割分担のあり方も大きな変化を迎えています。
「男とは」「女とは」といった固定的な考え方から脱却し、あくまで一人ひとりの個人が感じる幸せから出発すること、社会の構成員全員が様々な考え方や思考・能力を持つ存在であることを理解すること、そのためにも、性というものについての科学的な理解を深めることが、今求められているのではないでしょうか。
※1 たとえばビーズ夫妻のベストセラー著書「話を聞かない男、地図が読めない女」や「嘘つき男と泣き虫女」は、男女の能力や思考、感情などの違いを歴史的に形成されてきた性ホルモンの違いから説明しており、大変面白く、説得力があります。
(弁護士 岩城 穣)
(メールニュース「春告鳥メール便 No.71」 2024.11.8発行)