1 改正の概要
令和3年、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)が改正され、令和6年4月1日から施行されています。
今回の改正の重点は、民間事業者による「合理的配慮の提供」が「法的義務」とされた点にあります(改正法8条2項)。
同法では、従前、「合理的配慮の提供」について、政府に対して、法的に義務付けていた(法7条2項)ものの、民間事業者に対しては努力義務にとどまっていました。
2 問題となる場面
まず、改正法8条2項に定める「合理的配慮」とは、『社会的障壁の除去の実施』について向けられるものを指します。いわゆるバリアフリーの考え方です。バリアの中には、物理的なものに限らず、制度や偏見がバリアとなる場合もあります。
では、どのような場面で、いかなる「合理的な配慮」が求められるのでしょうか。
たとえば、弱視難聴の障害がある人と筆談での意思疎通を図ろうとした際に、文字が見えにくいとの申し出があった場合には、太字のペンで大きく文字を書くという合理的配慮が考えられます。その他にも、読み書きに時間がかかる学習障害のある人から、限られた時間内での黒板の転記が困難であるとの申し出があった場合には、デジカメやスマホによる黒板の撮影をできるようにするという合理的配慮が考えられます。
また、小売店において、付添補助が必要な障害者に対し、店員が、混雑時にまで付添をすることは過重な負担であると考えられるものの、その店員が買い物リストを書き留めて商品を準備することを提案することは可能であるから、そのような合理的配慮が求められることが考えられます。
ここにあげられているものは、あくまで一例です。合理的配慮の内容については、具体的場面や状況、技術の進展や社会情勢の変化等によって異なるもので、実際には事案ごとの判断が必要となります。
そして、具体的にいかなる合理的配慮を検討すべきかは、相互に対話を重ね、共に解決策を検討していくこと(建設的対話)が必要不可欠です。「前例がないので・・・」「特別扱いはできないので・・・」といったことではなく、建設的対話を通じて個別の事情を互いに共有することで、事業者と障害のある人双方が納得できるかたちでのバリアの除去を目指していくということが大切になります。
(弁護士 村西 優画)
(メールニュース「春告鳥メール便 No.71」 2024.11.8発行)