国連の社会権規約委員会が過労死・過労自殺の防止を日本政府に勧告

弁護士 岩城 穣

 国際人権規約の社会権規約(A規約)について、日本(1979年批准)を含む締約国における実施状況の審査が2013年4月29日~5月17日にジュネーブで行われ、うち日本の審査が4月30日に行われました。
 そこで私も含めた過労死家族の会の有志で、①日本政府の報告に対するカウンターレポートを事前に提出しておいたうえで、10名がジュネーブを訪問し、②審査前日に各国の審査委員と意見交換(ランチタイム・ブリーフィングと公式ミーティング)を行い、③審査当日、審査の様子を傍聴しました。
 そして、②の意見交換では家族の会代表の寺西笑子さん、愛知の榊原清子さん、東京の中原のり子さんが過労死問題と防止法について英語でスピーチを行いました。

 その訴えが実り、上記の審査の最終日である5月17日に発表された社会権規約委員会の「総括所見」の中で、社会権規約委員会は、日本政府に対し、「過労死・過労自殺を是正する立法・規制」を日本政府に勧告したのです
 これまで社会権規約委員会で、過労死・過労自殺の問題が取り上げられたのは初めてとのことで、大変画期的なことだと思います。産経新聞(5月23日付)、日本経済新聞(5月24日付)がこれを大きく報道し、5月28日には石橋通宏参院議員が参院構成厚生労働委員会でさっそくこれを取り上げる質問を行っています。
 私たちが立法を目指している過労死防止基本法の制定は、まさにこの勧告に沿うものです。この勧告を実現するためにも、私たちはこの法律の制定に、いっそう頑張りましょう。
 以下、原文と、訳文(須田洋平弁護士による)を紹介します。

17.The Committee notes with concern that a significant number of workers continue to work for excessively long hours, in spite of the measures taken by the State party to encourage employers to take voluntary actions. The Committee is also concerned that deaths caused by overwork and suicides due to psychological harassment in the workplace continue to occur. (art. 7)
 The Committee recommends that, in line with its obligation under article 7 of the Covenant to protect workers’ right to safe and healthy working conditions and to reasonable limitation of working hours, the State party strengthen measures to prevent long working hours and ensure that deterrent sanctions are applied for non-compliance with limits on extensions to working hours. The Committee also recommends that the State party, where necessary, adopt legislation and regulations aimed at prohibiting and preventing all forms of harassment in the workplace.

17. 委員会は,締約国が雇用主に対して自主的な行動をするように奨励する措置を講じているにもかかわらず,多くの労働者が今なお非常に長時間の労働に従事していることを懸念する。また,委員会は,過労死及び職場における精神的なハラスメントによる自殺が発生し続けていることも懸念する。
 委員会は,社会権規約7条に定められた,安全で健康的な労働条件に対する労働者の権利,そして,労働時間に対する合理的な制限に対する労働者の権利を守る義務に従って,締約国が長時間労働を防止する措置を強化し,労働時間の延長に対する制限に従わない者に対して一般予防効果のある制裁を適用するよう勧告する。また,委員会は,締約国が必要な場合には職場におけるあらゆる形態のハラスメントを禁止,防止することを目的とした立法,規制を講じるよう勧告する。

◆(参考)社会権規約第7条第7条
 この規約の締約国は、すべての者が公正かつ良好な労働条件を享受する権利を有することを認める。この労働条件は、特に次のものを確保する労働条件とする。
(a) すべての労働者に最小限度次のものを与える報酬
 (i)  公正な賃金及びいかなる差別もない同一価値の労働についての同一報酬。特に、女子については、同一の労働についての同一報酬とともに男子が享受する労働条件に劣らない労働条件が保障されること。
 (ii)  労働者及びその家族のこの規約に適合する相応な生活
(b) 安全かつ健康的な作業条件
(c) 先任及び能力以外のいかなる事由も考慮されることなく、すべての者がその雇用関係においてより高い適当な地位に昇進する均等な機会
(d) 休息、余暇、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇並びに公の休日についての報酬

<ストップ!過労死 全国ニュース第6号(2013年7月9日発行)掲載>