安倍元首相の銃撃事件が浮かび上がらせたもの(春告鳥第16号 巻頭言)

 参院選投票日2日前の2022年7月8日、奈良市の近鉄西大寺駅で街頭演説中の安倍晋三元首相が銃撃され亡くなるという衝撃的な事件が発生しました。

 事件発生直後は、「某宗教団体」への「被害妄想」や「逆恨み」によるものと報道されたり、「民主主義への攻撃」といった評論がなされたりしていましたが、その後の報道によれば、容疑者(41歳)の母親が「統一教会」に1億円もの多額の寄付をするなどしたために家庭が崩壊し、教会の関連団体の集会でビデオ演説をするなど「広告塔」的な役割を果たしていた安倍氏を標的にしたとのことです。

 統一教会は、1954年、当時韓国で軍事独裁を敷いていた朴正煕大統領がKCIAに指示し、文鮮明が結成しました(1994年に「世界平和統一家庭連合」に変更)。「マインドコントロール」の手法を確立し、「集団結婚式」や「霊感商法」など多くの社会問題を引き起こしてきた「カルト宗教」の元祖です。運営の資金源の7割は日本で社会問題となっている霊感商法などで集められたといわれます。安倍氏の祖父の岸信介氏は文鮮明の盟友であり、親子3代にわたって統一教会と深い関係にありました。

 そうであれば、この事件は政治的なテロなどではなく、逆に、統一教会の反社会性、及び安倍氏をはじめとする戦後の保守政治家と統一教会の癒着の深刻さを浮かび上がらせたといえます。

 もちろん、法治国家のもとで容疑者の行為は許されるものではなく、法の裁きを受けるべきですが、そのことと、事件の背景や問題点を議論することの必要性は別問題です。

 また現在、政府は安倍氏を「国葬」にする方針であると報じられていますが、どのような人が国葬にふさわしいかの基準がなく(1926年に制定された「国葬令」は戦後廃止されました)、9年近くに及ぶ安倍政権の功罪については世論が二分しているうえ、「国葬」は多額の税金を使って国民全員に「弔意」を強制するもので、日本国憲法のもとでは認められるべきではありません。

(弁護士 岩城 穣)

(春告鳥第16号 2022.8.3発行)