「わが亡き後の洪水」をどう防ぐか(春告鳥第11号 巻頭言)

 「わが亡き後に洪水よ来たれ」というフランスの言葉があります。日本のことわざで言えば、「あとは野となれ山となれ」でしょうか。カール・マルクスが『資本論』の中でこの言葉に言及し、「これがすべての資本家およびすべての資本家国民のスローガンである。それゆえ、資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんらの顧慮も払わない」と述べたことが有名です。

 これは、法律で規制しない限り(規制してもそれが緩ければ)、過労死するまで働かせる企業を見れば、なるほどと頷ける言葉ですが、目先の利益や政権維持のために地球規模での温暖化や環境破壊に真剣に取り組まない政治家の行動にも当てはまるのではないでしょうか。気候変動対策に取り組むパリ協定からの離脱、石炭火力への規制緩和などを行うアメリカのトランプ政権や、そのアメリカに追随し、借金を増やし続けながら原発政策や軍備拡張に突き進む安倍政権を見ていると、「洪水」が現実的な意味をもって迫ってきます。

 地球の温暖化について、16歳のスウェーデンの環境活動家のグレタさんは、「今こそ、私たちの家が火事のように行動しなければなりません」と警鐘を鳴らしました。

 自分たちさえよければいいという企業や政治家が引き起こす「わが亡き後の洪水」をどう防ぐか。私たちは主権者として、また法律家としてどんなことができるのかを、皆さんと共に考え、行動する1年にしていきたいと思います。

(弁護士 岩城 穣)

(春告鳥第11号 2020.1.1発行)