1 法律制定までの経過 先日閉会した通常国会の実質的な最終日の6月20日、参議院本会議で「過労死等防止対策推進法」(略称:過労死防止法)が満場一致で可決・成立した。6月27日に公布され、11月1日施行の方向で調整が進んでいるとのことである。
私たちは、社会問題になってから25年以上経つのにいっそう深刻になっている過労死・過労自殺を防止する法律を作ろうと、「全国過労死を考える家族の会」と「過労死弁護団全国連絡会議」が呼びかけて2011年11月に「実行委員会」を結成し、約2年半にわたって活動を続けてきた。これまでに集まった署名は55万0137筆(うち大阪は5万6947筆)、法律制定を求める意見書を採択した自治体は10道府県を含む121自治体(大阪は大阪府を含め14自治体)に及んでいる。
昨年10月の臨時国会開会以降、「超党派議員連盟」が精力的に活動を開始し、今年1月の通常国会において、自民党を含む全政党で内部手続きが完了し、5月27日には衆議院本会議を満場一致で通過し、冒頭の参議院での成立となったものである。私は実行委員会の事務局長として微力ながら頑張ってきた。ご支援、ご協力くださった関係各位には、感謝の気持ちでいっぱいである。
「いずみ」読者の皆様には、たくさんの署名を集めて送っていただくなど、多大なご協力をいただいたことに、厚く御礼申し上げる次第である。
2 法律の中身 この法律はわずか14カ条のシンプルなものだが、次のようなことを規定している。
(1) 過労死を「業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や精神障害を原因とする死亡や自殺」と定義(第2条)。
(2) 国・自治体が過労死防止策を実施する責務を有すること、事業主はこれに協力する責務を有することを確認(第4条)。
(3) 国が実施する対策として、①過労死の実態の調査研究、②国民の関心と理解を深めるための啓発、③産業医への研修など相談体制の整備、④民間団体の活動支援─を列挙(第8条~第11条)。
(4) 「勤労感謝の日」を含む毎年11月を啓発月間とし、国と地方自治体はその趣旨にふさわしい事業を実施する(第5条)。
(5) 国は過労死を防止する「大綱」を作成し、その作成に当たっては、過労死遺族や労使の代表も加わって厚生労働省内に設ける「過労死等防止対策推進協議会」からの意見を参考にする(第7条、第12条)。
(6) 国は、調査研究結果や対策の実施状況を毎年国会へ提出する(「過労死白書」の発行)(第6条)。
(7) 調査研究の結果、必要と認めるときは、過労死防止のために必要な法制上、財政上の措置を講ずる(第14条)。
このように、この法律自体は直接に関係者の権利義務を規定するものではないが(理念法)、過労死を法律で明確に定義し、防止策の実施を国の責務としたことの意義は大きいうえ、遺族の声も聴きながら過労死防止対策を具体的に進めていく仕組みが作られることは、大変評価できるものである。
3 今後の課題
今後、前出の「協議会」の設置や「大綱」の作成の作業が始まり、また、11月1日の施行に向け、中央及び全国各地で多彩なイベントやキャンペーンが行われることになる。また、私たちの側でも、これまでの実行委員会をどのように次のステージに発展させていくかという課題がある。 数年後には、「過労死が現実に減少した」といえるようになるよう、頑張っていきたい。皆様の引き続くご支援、ご協力をお願いする次第である。
【弁護士 岩城 穣】(いずみ第36号「オアシス」2014/8/1発行)