1 「1日8時間、週40時間を超えて働かせてはならない」と定める労働基準法が守られていたら、過労死・過労自殺は絶対に発生しない。これが「ザル法」になっている原因は、①ほとんどの大企業で、青天井の時間外労働を認める労使協定(36(さぶろく)協定)が締結され、労基署が受理していることと、②残業させながら時間外手当を払わない「サービス残業」がはびこっていることである。
そのような違法残業を含めた過重労働の広がりは、ここ最近の不況や就職難と相まって、極致に達している。
2 「○○基本法」は、その問題の解決が重要であることを宣言し、総合的な施策の推進を図る法律である。これまで、「消費者基本法」(昭和43年)、「男女共同参画社会基本法」(平成11年)、「自殺対策基本法」(平成18年)など約40が制定されているが、驚くべきことに、労働に関わる基本法は一つもない。
2年くらい前から、過労死弁護団全国連絡会議や日本労働弁護団で、過労死の防止に関する基本法を制定すべきではないかという議論が始まったが、09年8月の政権交代でその気運は一気に高まった。大阪過労死問題連絡会では、独自に法案のたたき台を作り、昨年4月過労死弁護団全国連絡会議と共同で発表した。
3 そして、去る10月13日全国過労死家族の会の主催、過労死弁護団全国連絡会議の共催で、「ストップ過労死! 過労死等防止基本法の制定を求める院内集会」が、東京の衆議院第2議員会館で開かれた。集会には、民主党・共産党などから33人の国会議員(秘書の方の参加を含む)をはじめ約170名が参加した。参加者の大半は過労死遺族であり、その涙の訴えは、参加した議員たちの心に迫ったものと思う。
4 とはいえ、1つの法律の制定を勝ち取ることは、並大抵ではない。ましてや、現在はびこっている違法・過重な労働に歯止めをかける法律なのだから、産業界などの有形無形の抵抗・反発も強いだろう。しかし、「からだ」か「こころ」のどちらかが壊れるまで働かざるを得ない今の状況にストップをかけ、人間らしい労働を求めることは、働く人々全員の願いのはずであり、条件は十分にあると思う。立法を求める活動は弁護士は必ずしも得意ではないが、裁判などと違った未来志向のやり甲斐がある。
【弁護士 岩城 穣】(いずみ第29号「弁護士活動日誌」2011/1/1発行)