1.A子さん(1945年生まれ)は1969年にB氏と結婚したが、1985年ころから夫婦仲が悪くなり、1989年から別居を開始した後はほとんど音信不通の状態が続いた。一方でA子さんは、別居開始後の1993年ころからC氏と同棲を開始し、事実上の夫婦として暮らしてきた。
(再婚禁止期間)
第七百三十三条 女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2 女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。
A子さんは、B氏の年金分割の問題やお墓の問題もあるので、いつまでもこのような状態を続けていてはいけないと離婚を決意して、私に相談に来られた。私は、20年以上別居と音信不通が続いていたのだから、比較的容易に調停が成立するのではないかと考えて、2010年11月、家裁に調停を申し立てた。
2.ところが、予想に反してB氏は年金分割に難色を示して調停は長期化し、訴訟も避けられない可能性も出てきたうえに、内縁の夫のC氏が末期ガンで、死期が近いという深刻な事実が判明したのである。
私はA子さんと協議して方針を転換し、B氏の年金分割は断念し離婚だけを認めてもらって2011年11月調停を成立させた。
しかし、調停成立後すぐにC氏との婚姻届を提出することはできるのか。民法733条は、女性に限って、前婚の解消から6か月を経過しないと再婚できないと定めているからである。最高裁は、この規定は憲法に違反しないとしている(最高裁平成7年12月5日判決)。
3.とはいえ、民法733条が女性だけに待婚期間を定めている理由は、「父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐ」(前記最高裁判決)ことにあるはずであり、だとすれば、既に65歳で生物学的に子どもが生まれる可能性がない女性にも、一律に再婚禁止期間を強制するのはおかしいのではないか。そして、その間にC氏が亡くなってしまうと、Cさんの遺産も相続できないという、取り返しのつかない結果となってしまう。これは、どう考えてもおかしい。
そこで、私はA子さんに対して、「民法の再婚禁止期間の問題はありますが、とりあえずB氏との離婚届とC氏との婚姻届の両方を役所に提出して下さい。窓口で受理してもらえなかった場合は私からできる限り説明し、それでもダメなら、再婚禁止期間の一律適用は違法だと主張して国家賠償請求訴訟を起こすことも考えましょう」と説明して、そのようにしてもらった。
すると、予想どおり戸籍係の担当者から電話があったので、これまでの経過を説明し、「とにかく時間がないので、受理してもらわないと困ります。もし受理してもらえなければ国賠訴訟も考えます!」と啖呵を切っておいた。
後日、A子さん自身も役所に呼び出されて一生懸命説明したところ、何と婚姻届が受理されたのである。
4.A子さんによれば、婚姻届が受理されたということでC氏は泣いて喜んでくれた。C氏は2か月後の2012年1月に亡くなったが、2人で寄り添いあって最後まで暮らすことができ、また、自分もC氏と同じお墓に入れることになってよかったとのことであった。
恐らく、戸籍係の担当者は、法務省にまで伺いをたてて受理を決めたのではないか。英断を下していただいたことに感謝するとともに、おかしいと感じることに対して最初から諦めてはいけないと、改めて肝に銘じた。
なお、後で確認すると、B氏も同年3月に亡くなっていた。B氏とも不毛な争いを続けなくてよかったと、心から思った。
(いずみ第35号「弁護士活動日誌」2014/1/1発行)