7月11日、経産省のトランスジェンダーの職員が、女性トイレの使用制限などをされたのは不合理な差別だとして、国に処遇改善を求めた裁判で、最高裁は5人全員一致で、国の対応を違法とする判断を示しました。
原告となった職員は、1999年ごろ「性同一性障害」の診断を受け、2009年には、経産省の担当職員に、女性の服装での勤務や女性トイレの使用などの要望を伝えたところ、女性トイレについては、勤務するフロアから2階以上離れたフロアのトイレを使用するよう言われました。
同職員はこの指示を受けて、人事院に対し、職場の女性トイレを自由に使用させることなどの行政措置の要求をしましたが、人事院は要求を退けたため、裁判に至りました。
最高裁は、①自認する性別と異なる男性用のトイレを使用するか、勤務するフロアから離れた階の女性トイレなどを使用せざるを得ず、「日常的に相応の不利益を受けている」と指摘したうえで、②同職員は健康上の理由から性別適合手術を受けていないが、女性ホルモンの投与や女性化形成手術などを受けるなどしている、③同職員が女性の服装などで勤務し、勤務するフロアから2階以上離れた階の女性トイレを使用するようになったことでトラブルが生じたことはない、④説明会で、原告が勤務フロアの女性トイレを使用することについて、明確に異を唱える職員がいたことはうかがわれないこと等を事情として挙げて、人事院の判断は、「具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視するもので、著しく妥当性を欠いたもの」などとして、違法と判断しました。
今回の最高裁の判断は、原告となった職員の状況や、同職員が受ける不利益の程度、女子トイレの使用を認めることによって他の職員が受ける不利益の程度を具体的に比較した結果なされたものです。トランスジェンダーとはいっても、自身の性別に違和を感じている人から、ホルモン療法を受けている人、性別適合手術を受けた人までおかれた状況は様々です。また、これまで男女でトイレ等の利用が区別されてきたことから、他の職員への配慮も必要だと思います。ただ、他の職員の漠然とした不安をもって、トランスジェンダーの方に不利益を押し付けることは許されないと明確に示したことに、本判決の意義があると思います。
重要なことは、個々人の特性を尊重し、働きやすい職場環境を構築するよう努力していくことです。今後は本判決がそのような取組みの後押しとなることを願っています。
(弁護士 松村 隆志)
(メールニュース「春告鳥メール便 No.60」 2023.7.31発行)