欠陥中古住宅を買ってしまったら~判例と改正法を踏まえた考察~

1.最近相談の事案

 築37年の鉄骨造住宅を土地付きで購入したところ、1階の床が1000分の7の傾きがある(1メートルで7㎜下がっている)ことが判明し、売主に補修費用を請求したいという相談が最近ありました。しかし、中古物件なので、現状有姿売買であり、売主は契約不適合責任(旧法では瑕疵担保責任)を負わない、との契約になっていました。このような場合でも売主に請求ができるかという相談です。

2.よく似た判例

 この案件とよく似た判例がありました。それをご紹介するとともに、令和2年4月1日の改正債権法施行により適用法条が当時と変わっているところがありますので、その点についても考察し1,の相談に対する回答を考えていきたいと思います。

 大阪地方裁判所平成15年11月26日判決がその判例です。事案は、土地付き中古住宅(築26年)を購入したが、入居後その建物には少なくとも1000分の20の傾きがあることが判明しました。各階が同じ方向に同程度傾いているため単なる床の傾きではなく建物全体の傾きであると認められました。平成12年7月19日建設省(現・国土交通省)告示第1653号「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」において、建物の傾斜に関しては、壁または柱、床のいずれについても、1000分の6以上の勾配の傾斜がある場合には、構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が高いとされています。判決は、このような建物の傾きは「瑕疵」であると認定しました。なお、契約書における瑕疵担保責任に関する定めは、本件不動産は現状有姿売買であり、売主は、本件不動産につき瑕疵担保責任は負わない、但し、売主が瑕疵の存在を知っていたにもかかわらず買主に知らせなかった部分については瑕疵担保責任を負う、ということになっていました。

 買主は、この瑕疵について、売主に対して瑕疵担保責任による解除に基づき売買代金2380万円の返還請求を第一に求め、予備的に瑕疵担保責任ないし不法行為にもとづく補修費用(建物の傾きの原因である不同沈下を是正するための工事費用700万円)等890万円の損害賠償請求を行いました。また、調査、説明義務違反として、売主側仲介業者に対して不法行為にもとづく損害賠償請求、買主側仲介業者に対して債務不履行にもとづく損害賠償請求を行いました。

 判決は、買主が売主に瑕疵担保責任を追及するためには「隠れた瑕疵」であることを要し、それは、買主が過失なく知らなかった瑕疵であると判示し、本件では買主が注意していれば知り得たといえるので、買主に過失があり、「隠れた瑕疵」とはいえない、という論法で、瑕疵担保責任にもとづく請求は棄却しました。

 しかし、判決は、売主は本件瑕疵を知っていたのに告げなかったという告知・説明義務違反があり不法行為責任を負う、両仲介業者も調査・説明義務違反があるとして不法行為責任(契約関係にない売主側仲介業者)、債務不履行責任(契約関係にある買主側仲介業者)を負うとして、被告三者は連帯して補修費用等の損害のうち498万円を支払うよう命じました。買主の補修費等の損害請求額890万円から減額されている理由は主に、慰謝料100万円が認められなかったことと、買主にも瑕疵を知らなかったことにつき過失があるとして3分の1の過失相殺がなされたからです。

3.新法を前提とした1.の事案への当てはめ

 新法では、瑕疵担保責任は562条、563条で「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは」と改められ「契約不適合責任」といわれるようになりました。それとともに「隠れた瑕疵」という要件がなくなりましたので、買主に過失があって契約不適合を知らなかった場合でも同責任を追及できる可能性があります。

 次に、契約不適合責任を負わないという特約の有効性ですが、新法572条(旧法も572条)は「知りながら告げなかった事実についてはその責任を免れることができない」と規定しており、売主が傾きを知っていたのに告げなかった場合は、契約不適合責任を追及することができることになります。

 「現状有姿売買」条項については、契約後引き渡しまでに目的物の状況に変動があったとしても、売主は引渡時の状況のまま引き渡す債務を負担しているに過ぎない売買であり瑕疵担保責任が免責されるというものではありません(東京地裁平成28年1月20日判決)。

 本件では、床の傾きなのか建物全体の傾きなのかを調査して事実を把握する必要があります。物件状況確認書では売主は「建物の傾き」は「確認していない」と説明しており、建物の傾きが判明した方が、「知りながら告げなかった事実」と言いやすいように思われます。床の傾きであった場合でも、1000分の7の傾きは居住していれば通常体感できるので知っていたといえ、それを告げなかったことを立証できれば契約不適合責任を追及できる可能性があります。

 損害賠償として請求する補修費については補修方法と補修金額を建築士に調査鑑定してもらう必要があります。損害賠償の根拠規定は旧法では570条、566条1項ですが、新法では564条、415条になります。

 床の傾斜を是正するだけの工事ですと数百万円で済みますが建物全体の不同沈下を是正するための工事はアンダーピニング工法(鋼管圧入工法)などを施工することになり2.の判例のように700万円以上かかる可能性があります。建物が古く価値があまりないとしたらそのような高額な請求は可能なのでしょうか。交通事故の物損の場合中古自動車の補修費用が中古価格を超える場合は経済的全損として中古価格以上の補修費用は認められません。欠陥住宅の分野ではこのような経済的全損の考え方は書物にはほとんどないとされています(齋藤重道編著「建築訴訟」349頁)。

 この点は2.の判例でも争われ、被告は売買代金は土地の時価程度であり建物の瑕疵による損害は認められないと主張しましたが、判決は、購入後原告が本件建物に居住し続けるつもりで購入したことを根拠として「本件売買契約の当事者としては、本件土地のみならず、本件建物についても、その価値を相応に評価していたものと認めることができる。そして、平成13年度の本件土地の固定資産評価額は1387万7000円、本件建物の固定資産評価額は767万1000円であったことにも照らして考えると、本件売買契約当時の本件土地と本件建物の価格の割合は、1.8対1程度であるので、前記のように大幅に値下げされた結果の本件売買契約の売買代金2380万円に占める本件建物の価格は少なくとも700万円を上回るものと評価することができる。」として被告の反論を退けています。

 同様に考えると、1.の相談事例では売買代金は1500万円、土地と建物の固定資産評価額の比率は1.7対1程度であるので555万円を超えなければ売主からの反論は退けることができそうです。

(弁護士 田中 厚)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.62」 2023.10.3発行)