労働協約の地域的拡張適用が実現!

  1. 青森、岩手、秋田の3県全域の大型家電量販店に勤務する無期雇用フルタイム労働者を対象に、令和5年6月1日から、年間所定休日日数の下限が111日となることが決定されました。これは、「労働協約の地域的拡張適用」(労働組合法18条1項)という制度を利用したものです。同項では、「一の地域において従業する同種の労働者の大部分が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該労働協約の当事者の双方又は一方の申立てに基づき、労働委員会の決議により、厚生労働大臣又は都道府県知事は、当該地域において従事する他の同種の労働者及びその使用者も当該労働協約の適用を受けるべきことの決定をすることができる。」とされています。
  2. 今回は、ヤマダデンキとデンコードー(ケーズデンキグループ)がそれぞれの労働組合(UAゼンセン加入)との間で同一の労働協約を締結し、これにより上記の東 北3県における同種の労働者の90.3%が同一の労働協約の適用を受けることとなったため、「大部分」が「一の労働協定の適用を受けるに至った」と認められました。
  3. ヤマダデンキとデンコードーのいずれも、現状年間休日は113日あり、労働協約に加わっていないコジマの年間休日も114日あるとのことで、今回の労働協約の地域的拡張適用によって、労働者の休日が増えるわけではありません。ただ、大型家電量販店では、過去に、企業間競争が行われる中で年間休日が引き下げられた事例もあり、今後の労働条件の切下げを防ぐという意味では非常に意義のあるものといえます。
  4. ところで、労働協約の地域的拡張適用という制度は、ある地域で大多数労働者に適用される労働協約を、非組合員及びその使用者にも拡張適用することによって、労働条件切下げ競争を防止することを目的としたものです。ドイツの労働協約法に倣った制度ですが、産業別や職業別の労働組合の存在を前提としており、企業別組合が主流の日本ではこれまでほとんど利用されてきませんでした。
  5. 直近の前例としては、令和3年9月、今回と同じくUAゼンセン加入の労働組合と大型家電量販店各社とが締結した労働協約が、茨城県全域の大型家電量販店従業員に適用されたもののみで、それ以前30年以上は申立てすらありませんでした。
  6. 近年続けて労働協約の地域的拡張適用がなされたことは、産業別労働組合の果たすことのできる役割の大きさに改めて注目を集めることになりました。また、地域全体で過当競争を防ぐという意味合いもあり、企業にとってもメリットがあります。今後、同種の取り組みがさらに広がり、労働者の最低限の労働条件が改善していくことを願っています。

(弁護士 松村 隆志)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.58」 2023.4.28発行)