国内の子の引渡し・国際的な子の返還の強制執行の方法に関する改正について

1 国内の子の引渡しの強制執行の場面(日本国内で本来共に暮らすべき親等に子を引き渡す場面)は民事執行法により、国際的な子の返還の強制執行の場面(国境を越えて連れ去られた子を元々いた国に戻す場面)はハーグ条約実施法(※)によりルールが整備されています。

 今回は、令和2年4月に施行された、民事執行法とハーグ条約実施法の改正を紹介したいと思います。

 ※正式名称は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」です。

2 子の引渡し・返還の強制執行の方法には,間接強制(裁判所が相手方に対して引渡しや返還に応ずるまで1日当たり○○円支払うよう命令するもの)と直接的な強制執行(裁判所の命令を受けた執行官が子のいる場所に赴いて引渡しや返還を実現 する方法)の二つがあります。

 改正前のハーグ条約実施法では,直接的な強制執行をするためには間接強制 を先行させる必要がありましたが,改正法では,国内の子の引渡し・国際的な 子の返還ともに,一定の要件を満たせば,間接強制の手続を経ずに直接的な強制執行を申し立てることができるようになりました。

3 また,これまでは,国内の子の引渡し・国際的な子の返還ともに,直接的な強制執行を行う場所に,債務者(子の引渡しや返還をしなければならない人) がいる必要がありましたが,改正法では債務者の同席を不要としました。その代わりに,子の引渡しや返還を求めている債権者が執行の場所に出頭することを原則化しました。

4 子供の引渡しや返還の事件では、債権債務者間に深刻な対立関係がある場合が多い一方、紛争が長引いているうちに子はどんどんと成長することから、執行がなされる前に子供の生活が債務者側の環境のもとで形成されていくという難しい問題があります。

 国内の子の引渡しの場面でも、国際的な子の返還の場面でも、こうした改正は、これまでの実情を踏まえて、子の引渡しや返還が迅速かつスムーズに行うことができるようになることを目的としてなされました。

5 子供をめぐる紛争に関して、疑問に思うことがありましたら、遠慮なく弊所までご相談ください。

(弁護士 安田 知央)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.53」 2022.10.12発行)