「教員による児童生徒性暴力防止法」の基本指針案について

 2021年5月に成立した新法「教員による児童生徒性暴力防止法」に基づき、文部科学省は、同年12月22日、「基本指針案」を公表しました。指針案の柱となるのが、免許失効者への再交付の可否を判断する仕組み「再授与審査」です。

 現行法では、性暴力で懲戒免職処分を受け、教育職員免許状が失効しても、3年たてば免許を再取得できます。性犯罪は犯罪類型の中でも特に再犯が多い類型であるにもかかわらず、そのような教員が容易に現場復帰できる仕組みそのものに疑問が投げかけられていました。

 新法施行後は都道府県教委が新設する再授与審査会の判断を求めることになります。その際、再交付に支障がないことを立証する責任を元教員に負わせ、「再び性暴力を行わないことの高い蓋然性を証明する」書類(例えば更生プログラムの受講歴や医師の診断書、復職を求める保護者らからの嘆願書、被害者への謝罪、損害賠償などの書類)の提出を求めた上、さらに、医療や心理、福祉、法律の専門家らで構成される審査会で、委員の意見が原則、全会一致しなければ再交付を認めないという仕組みへと変わります。

 さらに免許失効者の40年分の処分情報をデータベース化して採用の際に活用できるようにするなど、教員としての現場復帰が極めて難しくなる見通しです。 基本指針はパブリックコメント(意見公募)を経て決定された後、来年4月1日に新法を施行する予定で、データベースは2023年4月に稼働予定とのことです。

 また、わいせつ行為やセクハラで2020年度に懲戒免職などの処分を受けた全国の公立学校の教員が200人いたことが、2021年12月21日、文部科学省の調査で分かりました。しかもそのうち、半数近い96人が、自校などの児童生徒に対するわいせつ行為を理由に処分を受けた教員でした。こうした類型は、被害者側がその被害を明るみに出さないことも多いため、実際の該当者はもっと多いことも推測されます。

 教員の立場や信頼を悪用し、子供たちを傷つけることは、決して許されてはなりません。子供たちが負う傷の深さは想像を絶します。職業選択の自由への一定程度の制限を設けたこと、また個人情報保護の観点からもデータベース化という例外を認めたことについて、異論のあり得るところですが、子供の性被害という被侵害法益の重大性とその被害の深刻さに鑑み、一歩踏み込んだ形で新法が施行されることに期待がかかります。

(弁護士 安田 知央)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.44」 2021.12.28発行)