1 特にここ数年で「LGBT」という言葉が国民に浸透し、「性的指向」(恋愛・性愛の対象が異性なのか同性なのか両性なのか)や「性自認」(自分の性をどのように認識しているか)について、国民の意識が急速に変化してきた。これらが多数の「普通の人」と違うからといって差別してはいけない、という考え方が急速に広がってきたと思う。
2 ところが、現行民法や戸籍法では、同性同士の婚姻は認められていない。そのため、
①同性同士が愛し合うカップルとして一緒に暮らしていても婚姻届は受理されない
②一方が亡くなっても他方が法定相続人になれない
③カップルを解消しても財産分与が認められない
④同性パートナーが外国人の場合、「日本人の配偶者等」という在留資格を取得することができない
⑤異性同士の夫婦であれば認められる税務上の特典(配偶者控除など)や社会保障(遺族年金など)も与えられない
といった不利益、不都合が生じている。
3 そのような中、国が同性婚を認めていないのは憲法24条(婚姻の自由)、13条(個人の尊厳、幸福追求権)、14条(法の下の平等)に違反するとして、国に国家賠償請求を行った事件について、2021年3月17日、札幌地裁は「同性婚を認めない現行制度は憲法14条に違反する」という画期的な判決を下した。
4 判決のポイントは、次のとおりである。
①憲法24条は、「両性」「夫婦」という文言を用いていることから、異性婚について定めたものであり、同性婚を認めていなくても24条に違反するとはいえない。また、包括的な人権規定である13条によっても、同性婚を求める権利が保障されていると解するのは困難である。
②しかし、(一般の)異性愛者には婚姻という制度を利用する機会を与えているのに、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですら享受する法的手段を提供しないことは立法府の裁量権の範囲を超えており、差別的取扱に当たり憲法14条に違反する。
③もっとも、国民の多数が同性婚や同性愛者カップルの法的保護に肯定的になったのは比較的近時のことであるので、立法府が長期にわたって民法や戸籍法の改廃等の立法措置を怠っていたとはいえないから、国家賠償法上違法とまではいえない(慰謝料請求は棄却)。
5 国民の意識が大きく変化しつつあるとはいえ、現行の民法や戸籍法が憲法違反という判決を下すのは、裁判所として相当な勇気と決断が必要だったと思う。裁判所の英断に心から敬意を表したい。
もっとも、憲法違反だとしながら慰謝料請求を認めなかった点には、国会への遠慮(忖度)が感じられ、やや不満が残る(とはいえ、慰謝料請求が棄却され国が勝訴した形になっているため、原告は控訴したが国は控訴できなかった。これは裁判所の知恵かもしれない)。
6 今後、舞台は高裁、さらには最高裁に移り、また他の地裁での訴訟(東京、名古屋、大阪、福岡)の成り行きが注目されるが、この判決のインパクトは大きく、国民の意識の変化がさらに加速しそうである。
何よりも、同性婚の法制化には法律の改正が不可欠であるが、国会議員の中で、同性婚を法制化する動きが強まっている。判決の1週間後の3月25日には、「結婚の自由をすべての人に」と銘打った院内集会に過去最多の39人の国会議員が参加したという。
最大の国会議員数を誇る自民党の中では同性婚に反対する保守派が強いが、公然と同性婚に賛成する議員も現れてきている。この秋にも総選挙が予定されていることから、同性婚の法制化を公約に掲げる政党や議員も多くなると思われる。
もっとも、自民党の保守派を中心に、同性婚までは認めず、既に一部の自治体で行われている「パートナーシップ」の公認にとどめようという動きも強まるであろう。
同性婚の法制化について、まさに主権者である国民が判断できるチャンスがやってきているのである。
そう考えると、今回の札幌地裁判決の意義は限りなく大きい。
(弁護士 岩城 穣)
(メールニュース「春告鳥メール便 No.36」 2021.4.28発行)