保釈に関するあれこれ

 保釈中の被告人が逃走する、そんな事件を最近よく耳にするようになりました。

 この話題に関連して、「裁判所が保釈を広く認める傾向を強めていることが影響しているからだ」というような新聞記事も目にしました。

 本当にそうでしょうか?

 保釈は、起訴後、一定額の保釈保証金の納付を条件に身体拘束を解き、もし公判期日に出頭しなければ保釈保証金を没収するという心理的強制により被告人の出頭を確保する制度です。この保釈制度の意義からすれば、昨今のこの問題は、保釈保証金が没収されるという心理的強制が、被告人の逃亡を抑止するための十分な効果を発揮しているかどうかという形で検討されるべきだと考えます。少なくとも、このような事件が多くなっていることのみを理由に、保釈自体が認められにくくすべきだというような世論の動きには注意が必要です。

 さて、「裁判所が保釈を広く認める傾向を強めている」という点に話を戻します。事実だとすれば歓迎すべきことですが、実感としては、保釈許可への道のりはとても厳しいように感じています。最も多い不許可の理由は、刑事訴訟法89条4号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があるというものではないでしょうか。被告人が罪を認めているケースや既に主要な証拠調べが終了してしまっているケースについては、比較的緩やかに保釈が認められているようですが、否認事件や証拠調べが終わっていないケースについては、なかなか保釈が認められないことが多く、保釈を勝ち取るために意に沿わない虚偽の自白をするか、検察側の証拠調べが終了するまでは、保釈が認められないケースが非常に多いように思います。保釈を不相当とする検察官の意見も、実現可能性を無視した証拠隠滅の可能性が述べられているだけであるにもかかわらず、裁判所が安易に乗っかりすぎているのも問題です。

 このように、保釈と引き換えに被告人に意に沿わない自白を迫り、裁判手続の大半が終了するまで身体拘束が長期化してしまう問題は、「人質司法」と呼ばれています。保釈が認められにくくなることにより、この「人質司法」に拍車がかけられることになれば、「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適性且つ迅速に適用実現する」という刑事訴訟法の目的は果たされません。

 保釈に関しては、裁判所の許可決定が出ても、保釈支援協会が支援を拒否することで保釈の道が事実上断たれてしまう(自己資金に乏しい被告人が保釈されにくい)という問題など、刑事弁護をしていると直面する様々な問題がありますが、それはまたの機会に。

 このメールニュースを読まれているほとんどの方にとっては、保釈制度のあり方など身近な問題ではないかもしれません。しかし、これを機会に、これまでと違った視点から保釈の問題を考える契機にして頂ければと思います。

(弁護士 井上 将宏)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.15」 2019.8.6発行)