弁護士の井上です。
このメールニュースをお読みの皆様の中には、現在の日本の刑事裁判において、『日本版司法取引』ともいえる制度が運用されていることをご存知の方もいることと思います。
最近では、日産自動車のカルロス・ゴーン氏のニュースで注目されていますね(日本における適用第2号だそうです。)。この日本版司法取引ですが、正式には『証拠収集等への協力及び訴追に関する合意』と呼ばれる制度(以下では、『合意制度』といいます。)で、刑事訴訟法350条の2以下に定めがあります。
この合意制度は、外国の映画などに出てくるような『自己の犯罪を認める代わりに量刑等において有利な取り扱いをしてもらう制度』(いわゆる自己不罪型)とは異なり、あくまで『真実の供述』をすることを条件に、検察官が特定の行為を行うことを合意する制度(協力型)です。例えば、『真実の供述』をした者について検察官が不起訴とする合意(同法350条の2第1項第2号イ)や、特定の求刑をする合意(同法350条の2第1項第2号ホ)をすることができます。もともと裁判官の判決内容までも拘束する制度ではありませんが、検察官が合意に反して起訴した場合などには、合意違反の効果として、合意に基づいて得られた供述や証拠を使用することができなくなる等のペナルティが用意されています(同法350条の14)。証拠の使用が禁止されることで、結果的に判決内容に影響が及ぶことはありうるわけです。
ちなみに、合意制度が適用される犯罪は限られていて(『特定犯罪』、同法350条の2第2項第1号ないし第5号)、贈収賄、詐欺、背任、横領等の刑法犯やゴーン氏の事件で問題となっている金融商品取引法等の経済犯罪、薬物・銃器犯罪等に限定されています。
これから忘年会シーズンですが、飲酒運転等に合意制度の適用はありませんので、お車に乗られる方は、『飲んだら乗るな!』を徹底してくださいね。
(弁護士 井上 将宏)
(メールニュース「春告鳥メール便 No.7」 2018.11.29発行)