別居親と子どもの面会交流のあり方について

1 わが国では、子の両親の離婚時に、父母のいずれか一方のみを親権者と定める単独親権制をとっている(民法819条1・2項)。そして、戦後、男性中心の終身雇用制が広がり、父親が主要な働き手、母親が専業主婦ないしパートという家庭が一般的になり(「男は仕事、女は家庭」)、住居(持ち家や賃借)も多くは夫名義となった。その結果、両親の夫婦仲が悪くなった場合、母親(妻)が一方的に子どもを連れて別居を開始するというケースが一般的である。

 その場合、子どもは親たちの都合で一方的に生活環境を変えられてしまうだけでなく、父親との人間関係が一方的に断絶されてしまう。これは子どもにとって想像を絶するストレスであり、心の傷となる。 

 また、最近は少子化や女性のキャリア志向もある中で、子育てに積極的に関わる男性も増えてきており(家事・育児をほとんど平等に分担している夫婦も少なくない)、そのような男性が子どもを一方的に連れ去られたときの悲哀、絶望は言語を絶するものがある(別居中の父親が子どもと無理心中を図ったケースもある)。

2 別居親が子どもに会うのは面会交流といわれ、民法766条1項は「面会及びその他の交流‥‥は、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」としているが、別居を選んだ妻(母親)は、感情的な理由もあって子どもを夫(父親)に会わせたがらないケースも多く、裁判所に調停申立をしても、せいぜい月に1、2回の日帰りしか認められないことが多い。それに、別居親は、子どもに「会えさえすれば」よいのだろうか。入学式や卒業式、運動会、授業参観や教師面談への参加はどうか。面会以外の電話、メール、LINEなどはどうか。

3 そのような面会交流のあり方も絡んで、別居中の子をどちらが監護する(面倒をみる)か、離婚後にどちらが親権をとるかで、深刻な争いになるケースも増えている。平成28年3月29日の千葉地裁松戸支部判決は、母は父娘との面会を月1回程度にしたいとしたのに対し、父は年100日程度の母娘の面会を約束したという事案で、子どもをより積極的にもう一方の親に面会交流させようとしている親の方に子の監護権や親権を与える「フレンドリーペアレントルール」を採用して父親を親権者と認めたが、平成29年1月26日の東京高裁判決は、未成年子の親権者を指定するにあたっては、当該事案の具体的な事実関係に即し、子の健全な生育に関する諸事情を総合的に考慮して、子の利益の観点から判断すべきであり、相手方に子との面会交流を認める頻度や態様はその考慮すべき事情の一つにすぎないとして、地裁判決を取り消し母親を親権者とした。そして、最高裁は同年7月12日付けで不受理決定をしたため、高裁判決が確定した。

4 離婚後の父母双方と子どもの関係の維持を促すことを目的とした「親子断絶防止法」制定の動きもある。現在出されている条文案では、①国や地方自治体は離婚後の親子関係断絶防止の対策を作り実施する責務を負う、②離婚時に子どもの養育権を持たない親との面会交流や養育費の分担の取り決めを書面化する、などとされている。もっとも、この法案には、特にDVからの同居親の保護という観点からの反対論も強い。

5 私は、夫婦や親子の問題は基本的にケースバイケースであり、一律的なあり方を強制するのは好ましくないが、DV被害などは十分に防止しつつ、子の福祉のために別居親との交流が十分にできる制度的な枠組みを作ることが、立法と司法の責任であることは間違いないと思う。

6 私が現在担当している事件では、別居親である父親の代理人として、子らとの十分な面会交流を求め、試行的に実績を重ねているケースもあれば、同居親である母親の代理人として、父親に対する子との面会交流の保障に腐心しているケースもある。子らを思う親の気持ちを尊重し、それを面会交流で子らに伝えることこそが、親の別居・離婚という辛い条件のもとでも、子どもたちにとって希望の灯ではないだろうか。

(弁護士 岩城 穣)

(春告鳥第6号 2017.8.8)